2020/08/28

配偶者居住権

1制度の概要

 配偶者居住権とは、被相続人の死亡後、その被相続人の配偶者(以下、「配偶者」とする。)が、その被相続人が所有する建物(配偶者と共有している場合も含む。)に相続開始時、居住していた場合に、無償で住むことができる権利を指します。令和2年4月1日以後開始する相続により取得する財産に適用されます。
 民法上、建物に対して配偶者居住権の設定登記を行わなければなりません。また、設定の登記を備えることで第三者への対抗要件が準用されます。
 配偶者居住権の存続期間は、原則として「配偶者」の終身の間ですが、遺産分割協議書、審判、遺言により権利の存続期間を設定することも可能です。そして、「配偶者」の死亡や存続期間の満了等によって配偶者居住権は消滅します。
 配偶者居住権は、財産的価値を有するものとされており、税務申告の際に財産評価を行い相続財産に含める必要があります。また、当該権利は、あくまで建物のみを利用する権利となりますが、その設定に伴って建物敷地利用権も取得することとなり、同様に相続財産に含めます。

2消滅時における課税

(1)「配偶者」の死亡や、存続期間の満了、建物滅失による配偶者居住権の消滅した場合には、贈与税の課税関係は生じません。

(2)存続期間の中途で合意解除や、放棄、用法違反に係る消滅請求による配偶者居住権の消滅は、土地建物の所有者による利用制限が解かれ、自由に使用・収益することができます。したがって、所有者は、配偶者居住権及び敷地利用権の経済的価値を「配偶者」から取得したものと考えられ、課税の対象となります。
 それらの消滅に対して所有者から「配偶者」へ消滅の対価として適正額の支払いがない場合には、所有者に対して贈与税が課税されることとなります(相通達9-13の2)。また、適正額を支払った場合には、「配偶者」が配偶者居住権を譲渡(換価)したものと考えられ、「配偶者」に対して譲渡所得が課されることとなります。

3設定が想定されるケース

 父が死亡し、相続人が母と子の2人である場合、父が所有していた自宅は母が居住し相続することが多いと思われます。一般的に、母が受け取る遺産総額のうち自宅の占める割合が高い場合には、法定相続分を基準として遺産分割を行う際、母は預貯金など他の遺産を受け取る金額が少なくなってしまいます。
 このようなケースにおいて配偶者居住権を設定すると、自宅の評価額が「所有権部分」と「配偶者居住権」に分かれるため、母はより多くの他の遺産を取得することができます。

4税務上の取扱い

(1)節税対策
 配偶者居住権を設定した場合には、母が配偶者居住権部分を、子が所有権部分を相続することになります。母は、①配偶者に対する相続税額の軽減(相法19の2)の適用、②配偶者居住権の設定に伴い、配偶者が取得する敷地利用権については、「土地の上に存する権利」に該当し、小規模宅地等の評価減の特例(措置法69の4)の適用があるため、相続税負担を大幅に軽減することができます。子は、母が死亡した際には配偶者居住権部分が消滅し、二次相続において当該部分を相続することはないため、設定しない場合よりも節税につながります。

(2)自宅を売却する予定がある場合
 配偶者居住権の設定後、自宅の売却による消滅は、原則として贈与税または譲渡所得が課せられることとなります。そのため、相続後に自宅を売却する予定がある場合には、配偶者居住権の存続期間を設定するなどの対応策を検討する必要があります。

5まとめ

 これまでは、相続発生により配偶者は、自宅を相続するか否かの選択しかできませんでした。「配偶者居住権」の創設により新しい相続財産の分割方法を検討することができるようになりました。
 配偶者居住権は、小規模宅地等の特例などを組み合わせることで高い節税効果がある一方、贈与税や所得税が課税されるケースがあるなどのデメリットも存在しております。配偶者居住権の設定の際には、一次相続のみならず、相続後の配偶者のライフプランや二次相続も考慮して検討する必要があります。

以上