2018/02/28

平成29年度税制改正 所得拡大促進税制

1制度の概要

青色申告法人が平成25年4月1日から平成30年3月31日までに開始する各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その法人の適用事業年度の雇用者給与等支給額が基準事業年度の雇用者給与等支給額に比して一定割合以上増加などの要件を満たしたときは、その雇用者給与等支給額の増加額の10%(税額控除限度額)を法人税額から控除(税額控除上限額:法人税額の10%(中小企業者等は20%)を限度)する制度です。
適用にあたっては、給与等の支給額に関して3つの要件があり、要件によって判定に用いる給与等の範囲が異なります(2.適用要件参照)。

2適用要件

所得拡大促進税制の適用を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たすことが必要です。
適用要件
適用のイメージ図
所得拡大 図1
以下にそれぞれの要件の詳細について説明します。
(1)要件①
当期の雇用者給与等支給額が基準事業年度の雇用者給与等支給額に比して一定割合以上増加していること
【雇用者】
その法人の使用人(役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)で、国内に所在する事業所につき作成された労働基準法108条に規定する賃金台帳に記載された者(国内雇用者)をいいます。
・①使用人であること、②賃金台帳へ記載すること、③国内勤務であること、がポイントです。
・使用人の範囲は、正社員、パートタイマー等の雇用条件の別、雇用保険加入の有無にかかわりません。
・役員の特殊関係者とは、役員の親族、役員と事実上婚姻関係と同様の事情のある者等を指し、これらの者は雇用者に含まれません。
・労働者派遣法42条「派遣先管理台帳」の記載対象である派遣社員は、賃金台帳の記載対象でないため雇用者に含まれません。
・海外赴任者は国内勤務でないため、国内雇用者に含まれません。
【給与等】
所得税法28条第1項に規定する給料、賃金、賞与等で、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されるものをいいます。
・退職手当や使用人兼務役員の使用人分給与は、給与等に含まれません。
・当期中に支給されておらず、未払計上した締後給与等で当期に損金経理されたものも給与等に含まれます。
・給与等の支給に充てるため他の者から支払を受ける金額(補助金等)は、雇用者給与等支給額の計算上控除します。
【基準事業年度】
平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度をいいます。
・例1 3月決算法人の場合 平成24年4月1日~平成25年3月31日の事業年度
・例2 9月決算法人の場合 平成24年10月1日~平成25年9月30日の事業年度
【一定割合】
適用事業年度によって判定に用いる割合が異なります。
所得拡大 図2
【当期の月数と基準事業年度の月数が異なる場合】
次の算式により計算した金額を基準事業年度の雇用者給与等支給額とします。
所得拡大 図3

(2)要件② 総額ベース判定
当期の雇用者給与等支給額が前期の雇用者給与等支給額以上であること
・雇用者給与等支給額の計算方法は要件①と同様です。
・当期の月数と前期の月数が異なる場合は、前期の雇用者給与等支給額は以下の通り計算します。
所得拡大 図4

(3)要件③
平均ベース判定 当期の平均給与等支給額が前期の平均給与等支給額を超えること
【平均給与等支給額】
次の算式で計算した金額をいいます。
継続雇用者給与等支給額÷継続雇用者給与等支給者数
・継続雇用者とは、当期及び前期において給与等の支給を受けた国内雇用者をいいます。
・継続雇用者のうち、継続雇用制度対象者に対して支給した給与等は継続雇用者給与等支給額に含まれません。
・継続雇用者給与等支給額は、いわゆる雇用保険の一般被保険者に係る給与等支給額をいいます。
・要件①②と要件③で計算対象者が異なります。要件③では、要件①②での計算対象者である国内雇用者のうち継続雇用者に絞り込んで平均給与等支給額を計算します。
・平均給与等支給額は所得拡大促進税制の適用要件の判定のみに用い、税額控除限度額の計算には用いません。
所得拡大 図6
なお、平成29年度税制改正により、平成29年4月1日以後開始事業年度については要件③は以下のように改正されました。
【中小企業者等の場合】
当期の平均給与等支給額 > 前期の平均給与等支給額
※変更なし
【中小企業者等以外の場合】
当期の平均給与等支給額 ≧ 前期の平均給与等支給額×102%
※平成29年度税制改正により、賃上率が2%以上であることが求められることとなりました。
賃上率=(当期の平均給与等支給額-前期の平均給与等支給額) / 前期の平均給与等支給額

3税額控除の計算

(1)平成29年4月1日前開始事業年度
次の①と②のいずれか小さい金額が税額控除額となります。
①控除額
A×10%
※A(雇用者給与等支給増加額)=雇用者給与等支給額-基準事業年度の雇用者給与等支給額
②限度額
法人税額の10%(中小企業者等の場合20%)
(2)平成29年4月1日以後開始事業年度
【中小企業者等の場合】
次の①と②のいずれか小さい金額が税額控除額となります。
①控除額
(ア)要件③の賃上率が2%未満の場合
A×10%
(イ)要件③の賃上率が2%以上の場合(上乗せ措置)
A×10%+(A又はBのいずれか小さい金額)×12%
※B=当期の雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額
②限度額
法人税額の20%
【中小企業者等以外の場合】
次の①と②のいずれか小さい金額が税額控除額となります。
①控除額
A×10%+(A又はBのいずれか小さい金額)×2%
②限度額
法人税額の10%
(具体例1)
要件①~③はすべて満たし、賃上率は2%以上、限度額以内とします。
所得拡大 図7
(具体例2)
要件①~③はすべて満たし、賃上率は2%以上、限度額以内とします。
所得拡大 図8

4実務上のポイント(新設法人の場合)

新設法人は、1円でも雇用者給与等支給額があれば設立事業年度から所得拡大促進税制の適用を受けることができます。
所得拡大 図11
基準事業年度の雇用者給与等支給額は、設立事業年度の雇用者給与等支給額の70%とされ、雇用者給与等支給額の増加割合は30%となりますので、要件①を満たすことになります。
所得拡大 図12
前期の雇用者給与等支給額は0円とされるので、要件②を満たすことになります。
所得拡大 図13
当期:継続雇用者の給与等支給額1円、継続雇用者の給与等支給者数は1人
前期:継続雇用者の給与等支給額0円、継続雇用者の給与等支給者数は1人
とされるので、(当期)1/1>(前期)0/1となり、要件③を満たすことになります。
なお、平成29年4月1日以後開始事業年度においては、前期の平均給与等支給額が0円の場合には以下の取扱いとなることに留意が必要である。
中小企業者等…上乗せ措置の適用はなく、10%の税額控除のみ適用
中小企業者等以外…設立1期目からの税額控除の適用なし

5平成30年4月1日以後開始事業年度(平成30年度税制改正大綱)

平成29年12月14日に平成30年度税制改正大綱が発表され、所得拡大促進税制は改組されることとなりました。適用期間は平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する事業年度が対象で、適用要件及び税額控除額の算定方法が変更となっています。
【適用要件】
①(平均給与等支給額-前事業年度の平均給与等支給額)÷前事業年度の平均給与等支給額≧3%
※継続雇用者の範囲に見直しがされる予定
当期と前期の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者で一定の者と定義されており、従前継続雇用者の対象であった「前期に中途入社した者」や「当期に退職した者」は除かれることとなります。これにより継続雇用者の把握及びカウントは従前より容易になると思われます。
②国内設備投資額≧減価償却費の総額×90%
※国内設備投資額・・・当期において取得等をした国内にある減価償却資産で当期末において有するものの取得価額の合計額
③教育訓練費≧前期及び前々期の教育訓練費教育訓練費の年平均額×1.2
【税額控除額(①と②のいずれか小さい金額)】
①控除額
適用要件①②を満たす場合・・・・C×15%
適用要件①②③を満たす場合・・・C×20%
※C(給与等支給増加額)=雇用者給与等支給額-前事業年度の雇用者給与等支給額
⇒税額控除額は基準年度からの増加額ではなく、前事業年度からの増加額により求めることとなります。
②限度額
法人税額の20%
以上