2013/01/07

情報創造コンサルティング事例その1 「車両別損益の活用で黒字転換」

車両別損益の活用による不採算車両の改善により、赤字経営から脱却すると同時に得意先からの評価を上げたケース

1会社概要

業種:物流業

従業員:120名

中堅の物流業であるS社は、集荷、仕分け、配送の3段階の物流業務をこなし、得意先から高評価を得ています

2背景と目的

S社は4t車50台余り、10t車50台余りと協力業者による輸配送を組み合わせて営業していますが、かつては走れば走るほど赤字が続いていました。というのも、全社の損益はつかめていましたが、どの車両、どの方面、どの得意先の採算がよいのかという計数の把握ができておらず、単純にドライバーの働きが悪いということになっていたのです。

診断を依頼されて計数の把握に取り組みましたが、情報生成の過程からして困難が予測されました。その原因は基本となる売上の分解が予想以上に難しかったからです。

S社の場合、多くの運賃が個建になっていました。集荷してきた荷物をセンターに集め、それを方面別に仕分けし、別の車両で配送するという仕組みで運営していました。運賃は最初に荷物を預かったところで発生しますので、日々の売上は出ますが、車両別には出ません。全ての荷物に対する運賃を、集荷、仕分け、配送に分解するところからのスタートをする必要があったのです。

1会社概要

1基準行動研修による人材育成

原始帳票を管理しているのはドライバーです。運賃の決定権限の問題や、計上日の決め方など、掘り下げていくと決めなければならないことが山のようにありました。そこでまず取り組んだのがドライバーに対する基準行動研修でした。なかでも報告・連絡・相談が社内の情報生成過程においてポイントであることを周知しました。

受領印のない伝票や回収遅れの伝票などがあったのでは、請求事務においても支障が出て来ます。ドライバーの一人ひとりが自分の仕事が会社の計数とどのようにつながっているかを理解することによって、記載内容の正確性、回収のタイミングが向上したのです。

問題はドライバーの研修時間をどのように捻出するかにありました。一回の研修時間を1時間とし、早朝から夕方まで、一日に5回の研修を実施しました。配車の関係で、いずれかの時間帯に出席することを義務化し、一年間のスケジュールで取り組みました。

この結果、回を重ねるごとに挨拶がよくなり、仲間意識が湧いてきているのが肌で感じられるようになりました。と同時に伝票類の提出率が高まり、内容の正確性も向上したのです。

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2車両別損益の算出

車両別損益を出すためには、車両別の売上に対して、車両別の変動費、車両別の固定費を割り振らねばなりませんが、これらはいくら頑張っても正確な数字にはなりません。いくつかの決めごとに基づいて、いかに早く活用できる数字にまとめあげることが出来るかがポイントでした。

変動費としては、燃料費、修繕費、タイヤ費、通行料に絞り込みました。燃料費は自家タンクと出先のスタンドでは単価が異なるので、月間の平均単価を使用量に掛けて算出するようにしました。修繕費は部品については実費で出ますが、修理部員の人件費をどのように賦課するかが課題でしたが、検討の結果運輸部、修理部ともに納得のいく内容に落ち着きました。タイヤは経理上は装着基準ですが、車両別では走行キロに対して一定の原価を掛けることで解決しました。

固定費で最も難しいのが人件費でした。車両とドライバーが固定されていればいいのですが、車両の乗り換えが頻繁にあったのです。最も多く乗車する車両に割り振りましたが、締日が月末でない場合のずれの問題は残りました。

減価償却費とリース料の関係も話し合いで決めました。結果的に新車の償却費があまり高いとやる気を失うということで、リース料に近い形で落ち着きました。管理費の負担も、車両の大きさで変えますが、管理職レベルで検討してもらい、皆の納得いく数値を負担させることにしました。

このような情報加工過程は、管理者が集まって話し合いながら決めていくことによって、車両別損益がどのような計算経過を経て出来ているかを理解してもらう上で大きな効果がありました。

4今後の展望

加工された情報も活用されなければ宝の持ち腐れである。S社においては、幹部を中心に運行効率向上会議を開催している。この中で、車両別損益から、方面別、得意先別損益を検討し、運賃交渉や協力会社の活用に応用している。

大切なことは運賃形態が様々であると同時に、輸配送だけを請け負っている得意先ばかりではないということです。方面別に見る場合には、出発時刻や帰り荷の獲得で黒字転換することも可能ですし、現在赤字の得意先といっても、他の得意先と組み合わせれば黒字転換できることもあるのです。

計数をもとに、営業部と運輸部が何に責任をもって取り組むかを決めることがポイントであり、そのためには計算方式そのものが自分たちで作ったものであるという意識が大切なのです。

5情報創造コンサルタントの役割

情報創造コンサルティングは、情報生成、情報加工、情報活用の三つのプロセスから成り立っています。情報生成のプロセスでは、ドライバー一人ひとりの情報収集に対する意識改革から始めました。自分たちの働きが、どのように会社の数字につながっているかを理解するに従い、情報生成の精度が上がっていきました。

情報加工のプロセスは、出て来た結果が使われるかどうかという意味で大切なプロセスです。運輸部と営業部を含む管理職が、納得がいくまで討議を重ね、自分たちの計算式を決めていきました。

情報活用のプロセスは終わりがありません。一時期黒字であっても、季節変動あり、得意先の売上の増減もあるので、このプロセスはいかに動態的に運用するかによって、全社の損益を左右する力を持っています。

経営環境が急変している現在、経営判断に役立つ計数の早期算出と、その運用支援を行うことが情報創造コンサルタントの役割です。