安全アンケートの活用事例

(1)「安全に関する企業風土測定」受診までの経緯

M社は自車年商6億円、大型車を中心に約40車両を保有し、ドライバーは40名。
事故率の推移をみてみましょう。

18、19年度に事故が多発しており、事故の内容を分析してみます。
年齢の低いドライバーが半分、加えて、10年以上勤続のベテランドライバーが事故を起こしていました。
3年前より、教育制度自体を見直す方針として以下の4点を打ち出し、改善活動に取り組んできました。

1新人教育制度の全面見直し

2ベテランドライバーの能力棚卸と再教育

3次世代班長層の育成

4管理者とドライバーのコミュニケーションの改善

方針を打ち出した当初は、事故率の減少や管理者による班会議の現場巡回、ベテランドライバーの行動改善、点呼時のコミュニケーションや個人指導が行われました。
上記の取り組みから3年経過し、図5のとおり事故率は改善してきました。

平成23年度には、事故率0.1件/10万kmという、新たな高い目標を設定し、取り組んでいました。
国土交通省 国土交通政策研究所より「安全に関する企業風土測定ツール」が公開され、無料で診断実施支援を受け、社内で新たな課題設定を行っています。
その目的は、実際に組織のメンバーの意識がどのような状態なのか、3年間の取り組みの効果測定と、今後の課題抽出です。

以下、測定結果の概要を紹介します。

(2)全体の傾向

1得点の高い領域

「Ⅴ.職場メンバーの積極心」「Ⅲ.教育訓練の充実」領域が非常に高くなっています。
これは、M社のトップ自らが健康管理、挨拶などの基本行動に率先して取り組んだ結果です。
それがドライバーにも浸透し、当たり前のこととしてできるようになっていました。
またM社の「朝礼」は他社の模範となるものであり、外部から見学を申込まれるほどの水準でありました。
挨拶等、基本行動の指導が徹底されており、朝礼や点呼等でも形やその意味などが常に教えられているという取り組みの表れでしょう。

また教育訓練については、トップ自身が採用に熱心であることに加え、3年前に新人教育制度を見直し、充実させ、会社の考え方を理解してもらう形を重視しています。
知識やスキル面だけでなく、他のドライバーとの交流や自分自身の生活の在り方を振り返る外部研修を取り入れ、「立派な家庭を築き、社会に貢献する」というM社の理念を具体化する内容となっています。


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2得点の低い領域

得点の低かった「Ⅳ.現場管理の充実」領域の回答分布を詳しく分析してみると、高評価と低評価がきれいに二つに分かれていました。
力を入れて取り組んできた基本行動や朝礼は高評価ですが、その他日々の管理に関する項目は大きくバラついていました。

このことを現場にヒアリングをしてみると、できる管理者とそうでない管理者、できる班長とそうでない班長がはっきりしていることがわかってきました。
班長やドライバーへの指導の質が個人に依存しており、あるべき姿の統一を行うことが必要と考えました。
3年間教育制度充実に力を入れてきたが、現場と管理者の関係に大きな課題があると経営者自身も気づかされた結果となりました。

3対策の検討

意思疎通の土台となる「職場メンバーの積極心」は高く、一定の土壌はありました。しかし、安全に対する行動には、ばらつきがありました。
対策として、まずは会社の統一的な安全基準を徹底すべく、「指導員」制度を正式に立ち上げました。

幸いにもベテラン班長の中に、スキルが高く人望も厚い人材が数名育っていました。
これらの人材を「指導員」とし、全ドライバーおよび新人教育、班長・副班長の育成の基準として、人材育成(職務能力、人間性両面の向上)を行う責任者としました。
次に、長年運営されている班別会議の運用方法を改めました。
具体的な運転スキルチェックリストや作業標準を展開し、浸透させていくため、指導員が班長と一体となって班員の指導をする形をとり、統一的基準の浸透と班活動の充実に努めていくことにしました。

4まとめ

事故がなかなか減らない、管理者が不足しているという悩みはどの会社も共通です。
しかし、各社の事情はそれぞれ異なり、解決方法もそれぞれ違ってきます。
その意味でこのツールは、「安全」の問題に対し「安全教育」といった、『点』の解決ではなく、トップ層の問題、マネジメントシステムの問題、教育の問題、現場管理の問題、そして個人個人の積極心の問題、というように『多面的』な観点で課題を抽出できます。
経営者自身が新たな視点で自社の経営の質、安全マネジメント体制を「見える化」できることに意義があります。

問題意識の高い経営者、安全統括管理者こそ、このツールを活用し、経営全体の視点から安全の問題を俯瞰してほしいと思います。
事業者にとって安全の問題は、事業の問題と密接に関連しています。
何が問題で、何が足りないのか、順位をつけるとどうなるのか。
「安全を実現する」ために向かうべき方向を見つけ、焦点をあて、会社全体で解決するきっかけになるのではないでしょうか。

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