2014/10/27

戦略的HP作成による集客対策

戦略的HP作成による集客対策(K社事例)

 

1.戦略的HPとは

  1. ホームページの開設状況

今ではほとんどの企業がホームページ(HP)に持っています。1999年では中小企業の23.3%しか保持していませんでしたが、2008年では71.8%が保有しています。2013年現在では84.3%(総務省「平成25年通信利用動向調査」調べ)も保有しています。

企業がHPを開設する目的は、「会社案内、人材募集」や「商品や催物の紹介、宣伝」、「定期的な情報提供」となっていますが、効果はどうでしょうか。実際にホームページ経由で募集が来ていますか?紹介している商品の売り上げは伸びていますか?情報提供がビジネスにつながっていますか?などの質問に答えられ、効果が出ていると回答出来なければ、それはHP開設時に明確な目的や計画がなかった事が理由かもしれません。

【図表】近年の企業ホームページ保有率

【図表】ホームページ開設の目的用途

  1. 業者任せではなく意図のあるHP

インターネットが普及し始めた頃はHPがあるだけで、差別化につながることがありました。現在では84.3%もの企業が保持しているため、HPがあれば良いという時代は終わっています。企業の経営戦略と同じようにHP自体にも差別化が必要となっています。

良くあるパターンとして、自社にITに強い人間がいないため、業者任せにしてしまうケースがあります。業者に「とりあえずモダンなデザインで」とか「このパンフレットの内容を載せておいて」、「このリストの商品を掲載しておいて」など、HPを事業戦略の一環としてとらえていなければ失敗するケースは多いです。

何のために、また、どういう数値的効果を期待しているのかを明確にし、戦略の一環として組み入れなければ、費用対効果を最大にすることはできません。明確な目的を持ち、それを計画し、PDCAサイクルで改善していくHPを戦略的HPと呼びます。

  1. 戦略的HP作成ステップ

戦略的HPは目的や効果を明確にして、HP開設後もモニタリングをしながら、ゴールに向かって改善していく手法で、業務改善と似ているところがあります。HPは、全国にアピールできる有益な手段であり、ほとんどの人が興味ある事を調べるときにインターネットを使います。その時にどうやったらユーザの心を捕まえることができるのかを真剣に考えなければ、HPに書いている文章すら読んでもらえません。そのため、しっかりとした準備を行い、自社主導でHPを作成する必要があると考えています。

①準備phase(フェーズ)

HPを開設や修正をしようと考えた時に、ベンダーに依頼するより前に自社内で整理することが重要です。この準備phaseに十分な時間をかけ議論しなければ、「何のために作るのか」という目的が曖昧になり、そのため検証も行えず、完成したら満足というHPになります。

【図表】準備phaseステップ

 <STEP1.目的の明確化>

まず、HPを作る意図を明確にします。「なぜHPを作るのか」、「どのような効果を期待しているのか」を明確にする必要があります。また、検討時には、対象ユーザ、期待効果、予算に関しては最低限イメージをつけます。

業種や業態、目的によって整理する項目は異なります。例えば、当社が支援させて頂いたK社では、顧客の減少が問題となっており、HPによって増やすことを目的としていました。顧客を増やすためには、まず明確にターゲットを選定し、そのターゲットが望むだろうサービスを検討しました。また、顧客を増やすといっても、新規顧客とリピーターの2軸で考える必要があるため、表のように目的を整理しました。

ポイントとしては、ターゲットをできるだけ詳細化すること、期待効果を明確に数値で表すことです。

【図表】K社の目的整理(例)

整理については、どのような書式でも問題ありませんが、当社が戦略的HPの実行支援を行う場合は、次のような整理表を活用し、コンセプトを明確化し、目的をハッキリさせるところからスタートしています。このように整理内容を文章化しておくと、メンバー間やベンダーとのが少なくなり、明確な意思を持ったHP作成に繋がり、完成した後も振り返りや改善が容易になります。自社での対応が難しければ、当社のような専門家を活用した方が、最終的に意味のある投資になります。

【図表】当社で使用している整理表(サービス業版)

 <STEP2. 競合調査と差別化>

その次に競合を調査する必要があります。現在、多くのHPが開設され、ユーザは多くの情報を得ることができます。そのため、比較検討を行い、納得したうえで、行動に移す傾向が強くなっています。特に地理的要素が関係ないインターネット通販などは、明確に差別化しなければ購買にはつながりません。そのため、自社の商製品・サービスや自社の特徴を明確に整理し、アピールする必要があります。

K社の場合は、他社が真似できない明確な差別化要因があり、それを前面に出し、ユーザに理解してもらう事がポイントとなる為、明確な競合比較は行いませんでしたが、例えば、婦人服店を例に取ると、商圏内に競合が2つあり、それぞれの特徴を整理すると、商品に特徴はあるが、立地面などの問題により集客ができていないなどが整理でき、商品の良さをアピールする(集客目的)方向性になります。

【図表】近隣の競合店

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【図表】競合店の整理

ネットだけの販売店、または、全国にPRしたい場合は、競合他社のHPを調べ、どのように差別化を行っているか整理し、自社が勝てる部分を見つける必要があります。

 <STEP3. 体制の明確化>

また、プロジェクトの体制と運用体制の明確化も必要です。プロジェクトは、基本的に通常業務との兼務になると思われます。そのため、責任や体制を明確にし、進捗報告の場の設定を決めなければ、いつまでたっても完成しません。また、作った後も改善する必要がある為、運用体制も決めたうえでスタートさせる必要があります。K社の場合も図のようなプロジェクト体制で行い、責任の所在を明確して進めました。

【図表】プロジェクト体制イメージ

②ベンダー依頼phase

準備phaseが終われば、ベンダーに依頼する事になります。ベンダーに自社の意図を明確に伝えるためにも準備phaseの内容は資料としてまとめて、見積時に渡すと概算見積と実際の見積の乖離も少なくなります。時間が無いときは準備phaseとベンダー見積を同時にするケースがありますが、予算内におさめるためには、準備phaseの内容が固まった後が良いです。ベンダー依頼phaseは次のステップで行います。

【ベンダー依頼phaseのステップ】

 <STEP4.作成するHPの概要>

HPは24時間365日働いてくれる営業マンととらえることもできます。ただし、優秀な営業マンにするためには、十分に考えたセールストークを掲載する必要があります。ターゲットのことを考え、ターゲットの興味がわくような文章は自社で考えるべきです。プロのライター等に書いてもらった方が良い文章になりますが、基本的には、プロジェクトメンバー内で文章を作成した方が良いと思われます。

整理する内容は、掲載するページの整理(社長からのメッセージや商品一覧など)を行い、重要なページは文章も作成し、整理します。

 【図表】ページ一覧(例)

 

【図表】掲載文章及び要望書(例)

 

 

 

 

 

 

<STEP5.ベンダー依頼時のポイント>

整理が終われば、次は依頼するベンダーを探します。信頼できるベンダーを探し出すことは難しいですが、下記点をポイントに選定します。

項目 ポイント
地理 ネットが普及し、全国どこでもHPは作れますが、メールなどでは明確に伝えにくい事(特にデザインや雰囲気)があるため、必ずFaceToFaceで打合せができる事がポイントです。
実績 ベンダーが今まで作ったHPを提示してもらい、自社が思い描いているHPが作れるか確認します。
対応 担当の対応スピード、自社都合だけで提案していないかを確認します。デザイン性が優れているだけのベンダーよりも親身になって話を聞く姿勢のベンダーの方が満足いくHPが作成できます。
柔軟性 HP作成途中で、「こうしたい」という思いが必ず出てきます。そのため、どの程度対応してくれるのかも確認します。
価格帯 STEP4で整理した資料をベンダーに提示すると概算見積がでるため、予算内かどうかを確認します。
ラフの質 良さそうなベンダーには最終的にラフデザインを作ってもらい、判断します。ラフが有料のベンダーは、柔軟性に欠ける会社が多く、避けた方が無難です。

<STEP6.HP作成>

ベンダーに数社見積を依頼し、その中で良さそうなベンダーに依頼します。準備phaseや作成するHPの概要が完成していれば、自社で行う事はほとんどありませんが、定期的な進捗会議を行い、意図通りに作成されているかどうかは確認します。

ベンダーの作業が完了すれば、完成品をチェックし、HPを公開し、プロジェクトは完了となります。

③検証改善phase

通常は完成して終わりというケースが多いと思いますが、実際は、ここからが本番です。HPが完成して、当初の予定通りの反応をユーザがしてくれるケースは、ほとんどありません。準備phaseはあくまでPlanであり、ベンダー依頼phaseがDoであり、検証改善phaseはCheck/Actionにあたります。

業務改善でもCheck/Actionが重要なようにHPでも検証改善phaseは非常に重要です。また、Check/Actionが行いやすい環境にもあります。通常の業務改善では歩留率、成約率などデータ収集が大変なケースが多々ありますが、HPは必要な情報のほとんどが自動で入手出来ます。そのため、改善活動が行いやすい環境にありますが、ある程度前提となる知識が必要です。

【図表】HP改善に必要な最低限の知識

項目 説明
ユーザ数 訪問した顧客の数です。この数値が低いと閲覧すらされていないため、SEO※対策が必要です。
ページビュー 何ページ閲覧されたかを表す指標で、一人あたりページビューが少ない場合は、ユーザの興味を引いていない可能性や他のページに移動するユーザの動線が確保されていないケースが考えられます。
平均滞在時間 ユーザが自社HPを訪れてどのくらい閲覧していたかを判断する指標で、これが短いページは掲載している内容を見直す必要があります。
直帰率 検索し訪れたページをみて直ぐに帰ったパーセンテージです。1ページ目で興味のあるページではないと判断しているため、ユーザの興味を引くように改善が必要です。
コンバージョン 成約率で商品を販売しているサイトの場合、購入人数/ユーザ数で表します。コンバージョン率が低いという事は、うまく営業できていないと考えられるため、セールストークや商品購入への誘導を見直す必要があります。

コンバージョンは成約だけでなく、問合せ件数や会員登録件数なども設定でき、HPの目的に応じて設定可能です。

※SEOは検索エンジン最適化(search engine optimization)の事で、GoogleやBingなどで検索した場合に自社のHPが検索されるための方法で、専門的に知識が必要となります。

HPのアクセス解析ツール(例:Google Analytics)などから、ターゲット設定が合っていたか(ユーザの性別/年齢情報から判断)、コンバージョンにうまくつながっているか(コンバージョン率やコンバージョンに至るまでのフローから判断)、閲覧されているか(ページ毎のアクセス状況から判断)など、様々な切り口のデータが取得でき、改善点は比較的見つかりやすいです。その改善点を浮き彫りにして、仮説を立て修正を施していき、自社の目標に近づける努力が必要です。

【図表】HP改善に必要なデータ収集(例:Google Analytics)

analytics

2.K社における検証改善phase

検証改善phaseを実施していない企業は多いですが、K社では月に一回、HPの状況をレポートにして検討しています。

K社の目的は、新規ユーザを増やし、HP経由でのユーザ獲得を増やすことを目的としています。そのため、モニタリングの主な指標は①アクセス状況、②サイトの品質、③申込件数などが想定通りに移動しているかどうかを確認していきました。

 ①アクセス状況

ユーザ数は当初1,435人/月から3ヶ月で1,545人/月と7.67%と微増ですが、ページビュー数が19,468PVから28,523PVと46.51%と増加し、アクセスしたユーザが興味を持ち様々なページを閲覧していることが分かります。また、直帰率も3.34%から0.37%と大幅に減っており、全体的な品質も向上し、ユーザ満足度が上がっていることが分かります。

【図表】1ヶ月目と3ヶ月目のアクセス状況

各アクセス指標の増加は、1ヶ月目から想定以上の結果でした。理由としては、30代~40代女性を想定ターゲットとしてHPを作成しましたが、実際のターゲットと合致(80.9%が女性で、25歳~44歳までで75%以上)していたため、ターゲット層からの満足度が高かったことが要因と思われます。

【図表】アクセスユーザの属性

 ②サイトの品質

HPの各ページの品質を確認すると自社のPRしたいページがアクセス上位を占め、また、滞在時間も直帰率も低く、ユーザ獲得に貢献しています。ただし、上位3つの離脱率が低いため、より他のページも見てもらう対策が必要です。また、内容をじっくり読んでほしいページが滞在時間13秒とユーザの満足を得られていないため、改善が必要です。このように指標を見ながら、各ページを微修正し、こちらの意図通りの指標が出るように改善活動を実施していきました。

【図表】各ページの品質

 ③申込件数

実際の目的である申込件数を確認すると1か月目は0件/月でしたが、3か月目では15件/月に増加しています。HPの改善を行いユーザ満足度の向上やページビュー数増加効果があらわれ、当初予定以上の成果が出ました。

【図表】1か月目

【図表】3か月目

3.まとめ

K社を例にとると、HPの指標がいくら良くても最終目的である申込件数が低くては意味がありません。ただし、ユーザ数の確保とHPの品質が確保されていれば申込件数は増加するため、「①アクセス状況」「②サイトの品質」を原単位として、改善活動を行えば目的は達成できます。このようにHPの改善活動も通常の業務活動と同じように取り組めば、成果は上がり、結果は数値で判断できます。

ただし、このように改善活動を行える理由としては、HP作成前に明確な目的や計画を立てているからで、それがなければ、改善活動自体も行うことが困難になります。現在、HPの作成やリニューアルを考えられているのであれば、是非この点を考慮していただきたいと考えております。

以上