2014/09/27

会計システム改善の5ステップ

会計システム改善の5ステップ

 

会計は経営の羅針盤といえます。経営者は自社の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの現状、経営計画が予定通りに実現しているかを把握しながら、経営環境の変化に迅速に対応するための意思決定を行う必要があります。

そのためにも経営者は自社の経営体質と成長の段階に応じて、自社の会計システムを設計し、構築する必要があります。

 

1.はじめに

会計システムは販売活動、生産活動、その他活動をサポートし、経営戦略に必要な情報を提供するための仕組みです。先の見えない経営環境の中でしっかりとした舵取りをするためには、羅針盤のごとく自社の位置をつかみ、意思決定をしていく必要があります。会計システムの意義は経営意思決定を支えることにあります。

限られた経営資源を投下する領域を選択し、集中していくためには、計数感覚を持った、きめ細やかな業績管理の仕組みを企業内に再構築していく必要があります。

 

2.会計システム改善のステップ

(1)会計システム改善の5ステップ

管理レベル

ポイント

業績指標

Level 1

財務会計

日々の計数管理体制の導入

まず資金管理に取り組む

粗利益

運転資金

Level 2

全社業績管理

迅速な全社業績把握

営業利益

CF

Level 3

部門別業績管理

部門別業績管理を通じた

経営幹部育成

貢献利益

総資本利益率

Level 4

利益資金計画導入

計画に基づいた経営

目標総資本利益率

フリーCF

Level 5

中期経営計画実施

将来に向けた全社体制の見直し

企業価値

 

会計システムの改善を定着させるためには、このステップに基づく必要があります。各ステップを飛び越えて実施しても、結局は、 問題が発生してしまいます。

例えば、実地棚卸の習慣(Lv.1 に位置づけている)は企業規模が小さなうちから当たり前のこととして実施する習慣を身につける必要があるのです。ここをおろそかにし、月次採算管理(Lv.2に位置づけている)に取り組んでも「正しい利益が算定できない」という問題を生んでしまいます。

 

(2)企業規模と経営体質に応じた会計システムの改善が必要

当たり前ですが、企業の規模により、組織づくりと管理のポイントは異なります。また、組織の質的構成(KD-Ⅰで測定)が異なれば、仕組みを活かす力も異なります。

 

 

Level 1.財務会計レベルのポイント

 

このレベルにある企業に対しては、まずは基本となる現金・預金管理を徹底することです。その上で日々の数値の把握、資金ショートさせないための日々の経理の体制をつくることが基本です。

この段階で計数に関する意識を高めておく必要があります。この段階で意識付けをしておかないと、計数管理がおろそかになり、いざというときに必要なデータが得られず、誤った意思決定をすることになります。中小事業者の多くがこの意識付けをおろそかにしてきたケースが多いのではないでしょうか。

 

◆このレベルの企業が必ず取り組まなくてはいけないこと

(1)現金・預金管理を大事にする。

現金については、毎日記帳し、残高を把握すると共に現物と一致させます。自分の財布と会社の財布を区別ができなくては、他の計数管理をどれほどしっかりしても、ざるで水をすくうようなものだといえます。

(2) 売上債権、買入債務の管理

得意先別、仕入先別の債権債務の残高をきちんと把握させ、年齢調べ等の管理をきちんと行うこと。不良債権は資金不足につながることをきちんと理解する必要があります。

 

◆経営体質改善のために取り組むこと

(1)日々入力のくせをつけてもらう

忙しさを理由に月末に事務処理を集中させるのではなく、取引の都度入力する習慣と仕組みをつくること。この習慣がステップ2以降の会計システムの精度に大きな影響を与えます。

(2)少なくとも売上高については予算をつくること

売上高については、商品別、得意先別に予算化し、毎月実績と比較し、現場で何が起こっているのかを考え抜く習慣を身につける必要があります。

 

◆企業の成長を考える場合に、取り組みたいこと

(1)販売データは、商品グループ、得意先ごとの「粗利益」をつかむ。

これを行うためには、売上高、原価等の変動費をつかむことが必要になります。売上を伸ばせば利益が残る経営環境ではありません。売上管理のみでは不十分であるという認識をこの段階から持ち、次のレベルを見据え、データの蓄積、整理する仕組みを検討する必要があります。ITが発達し、ちょっとしたコツと日々データを集める習慣さえ持てば、粗利益を管理する仕組みは比較的簡単に構築することができます。

 

(2) 在庫の実地確認を定期的に行う

少なくとも帳簿在庫が把握できる仕組みをつくっておく必要があります。実地棚卸については、決算時だけでなく、定期的に実施する仕組みを構築します。完全なデータを求めなければ工夫することで在庫金額の概算を求めることも可能です。在庫金額が把握できないと、月次での利益のぶれ、資金繰りを狂わせるもとになります。また、在庫をチェックしないことは、無駄な仕入やロスの発生につながり、粗利益率を悪化させる要因となります。また、安易なIT化はしないことが重要です。手作業で、実在庫と数量が合う仕組みをつくってからでなくては、時間とコストの無駄となる場合が多いでしょう。

 

Level 2.全社業績管理レベルのポイント

Level 1からLevel 2の境界線は、日常の中で数字を把握する体制の整備です。レジの区分を見直したうえで、毎日の売上データをパソコンに打ち込むこと等、簡単なことからでよいので、管理の仕組みをいれてください。

Level 2 は、月次の業績管理体制を整備する段階です。Level 2は企業として成長できるかの分かれ目です。このレベルの必須事項は、月次決算の早期化です。経理上の障害に対しては、特効薬はありません。日々の経理業務をきちんと行うことが、結局のところスピードアップにつながります。

経営体質の改善のためには、毎日の業績管理の内容を、月次実績検討の中で報告させることからである。

企業の成長に備える場合には、売上、粗利益については、Level 1からスタートした商品・製品グループ別管理の仕組みを充実させる。損益全体については営業利益(経常利益)までつかむ必要がある。

 

◆このレベルの企業に必ず取り組ませること

(1)月次決算を早期化する

ステップ1でスタートした日々の業績管理体制を、月次単位で整備する段階です。よって、月次決算については、翌15日までに出すようにしていきます。

 

(2)業績検討会をスタートする。

このレベルでの月次業績の情報は全て網羅する必要はありません。経営課題に即した重点情報の選択と分析が必要です。但し、月次の試算表だけではなく、以下の内容も検討資料として入れていきます。

① 主要商品・サービスの売上・粗利益実績(予算があれば対比)

② 損益計算書については、営業利益(経常利益)、単月と累計、前年同月比

③ ①、②の来月の予想

④ 重点課題

⑤ 課題の対応策

1ヶ月遅れの月次決算では業績管理に使えないので、自社で業績集計する体制を整える必要があります。担当会計事務所と相談し、迅速に月次を出す仕組みを作ることが必要です。

 

◆経営体質改善のために取り組むこと

(1)月次検討会の充実

日々の活動を管理していない会社では、月次の結果に対して執着心がわきません。よってLevel 1の取り組みが非常に重要になります。毎日の業績管理の内容を、月次実績検討の中で報告させなくては、形式的になり、数字への意欲も高まりません。

(2)業績管理指標による管理

業績管理指標を決め、データを取り、目標を立て管理させる。

(3)現場管理の組織作り

リーダーを選定し、仕事の手順の整理、教育訓練に取り組ませる。

 

◆企業の成長を考える場合に、取り組ませたいこと

(1)トップ自ら計数を学ぶ

Level 2 の中で経営トップは、計数分析にもとづく経営分析能力を身につける必要があります。これが月次データを使ったマネジメントの基礎になります。また、Level 3以降の取り組みも、トップの計数意識が高まらない中では、現場にしづらいでしょう。

Level 2は、成長に備えての訓練の段階である。全く計数管理ができていない会社ならば、おそくとも3年でクリアしてほしい。

 

Level 3.部門別業績管理レベルのポイント

Level 3の企業(Level,1、Level 2の課題をクリアしている)は、社長一人の経営力、営業力では限界が出てきており、組織で業績を伸ばす段階にあるといえます。

各部門に業績責任を負う部門責任者がいて、部門業績に責任をもたせる段階です。

この段階では、社長のみならず、部門長が自部門の計数管理に精通していく必要があります。中小企業の多くが、人材不足でこのLevel 3をクリアできていないことがあります。これは、Level. 1、Level 2の内容をおろそかにして経営してきた結果であることも多い。

限界企業の壁を越えていくためにはこのLevel 3のクリアが必須です。業績がいくら伸びても、社内の業績管理がLevel 2のままであり、社長一人が意思決定しなければならない状況では、これ以上のレベルアップは望めません。このレベルでは経営幹部の育成が最重要課題になります。但し、幹部育成の前に Level 1、2の内容がクリアされているかよく検討する必要があります。

◆このレベルの企業が必ず取り組むこと

(1)計数に基づく組織作り

このレベルでは、如何にして従業員の業績への貢献意欲を高めさせるかが重要である。小集団活動による体質改善を図り、自立的体質、創造的体質をつくる必要がある。

経営体質のレベルアップを図る中で、取り組むべきことは、部門業績のタイムリーな把握の仕組みづくりと、従業員への内容の公開です。全社業績の公開も必要です。従業員の貢献なくして、Level 4以上への進むことは難しい。

 

◆経営体質改善のために取り組ませること

(1)「成果配分」という考え方

成果配分、業績主義の考え方を教え始めるのがこの段階です。会社の成長とはどのようなことかを「付加価値」という視点で教えていく必要があります。給与は会社が生み出した付加価値から配分されるもの、先にもらえるものではないことを全員に理解してもらう。

全社員に付加価値を生み出す経営が重要であることの重要性を伝え、付加価値の配分の基準、仕組みづくりを考えはじめるのがステップ3である。

 

◆企業の成長を考える場合に、取り組ませたいこと

(1)部門長もバランスシートの理解をする

部門別のバランスシートまでつくることは難しいが、運転資金に関係する、売上債権、棚卸資産、買入債務の残高管理、社内金利の考え方を指導していく。部門に管理責任をもたせ、業績検討を通じて理解を深めていきたい。全社についてはバランスシートを意識した経営、資産効率の考えを入れていく。

Level 2をクリア後2年程度でLevel3をクリアしたい

 

Level 4.次期経営計画導入レベルのポイント

Level 4では全員参加の経営計画策定ができる体制を目指す。Level 1~3の積上げがあってはじめて、実効性の高い計画が策定できる。経営計画策定は、企業の将来を考える側面と、人材育成の側面に活用してほしい。

Level 3までの積上げをベースにし、部門責任者が自ら部門業績目標を設定し、積極的に部門経営を考える体制をつくっていく。従業員には全社の利益目標と部門の利益目標を理解してもらう。

部門ごとの毎月の実績について、部門長は計画と実績の差異を分析、説明できる体制をつくっていく。

従業員が計画作りの段階で、会社の実態や、付加価値を生み出す必要性を理解できるようにしていく必要がある。

 

◆このレベルの企業が必ず取り組むこと

(1)全員参加による利益計画作成

裏付けのある計画作りを行おうとすると、多くの場合、会社内にデータがなく、整理されていない状況につきあたる。データの集計調査で手一杯になってしまう。これは、Level 1から順番に課題を解決していない、またはLevel 1~3 のレベルがクリアされていないためおこる。計画で重要なのは数字づくりではない。数字の背景を解読し、創案、評価し、具体的なアクションプランを設定することにある。数字づくりが目的化している企業も多い。

 

◆経営体質改善のために取り組ませること

大事なのは、計画策定段階における議論と、問題点の洗い出しであり、現状分析→課題の洗い出し→対策の立案・評価→実行 という流れを 取り入れていくことである。

 

計画作りのスタイルを構築していくことが中心となるLevel 4については2~3年かかると思われる。経営の問題点を適確に把握し、この解決のための場として、会計システム構築、実績検討会が求められる。

 

経営者は自社の事業規模によるレベルと実体における会計システムのレベルのギャップをしっかりと認識する必要があります。

以上