2014/09/27

マネジメントシステムの充実による経営改善

「マネジメントシステムの充実による経営改善」

経営者、幹部は経営目標を創造し、それを職場の目標計画として具体化し、それを遵守しつつメンバーの自律性に信頼をおき、信頼に根ざしたコミュニケーションによって貢献意欲を向上させ、高い成果を実現することが求められる。今回の事例企業N社は、赤字から黒字への転換を果たし、経営者と経営幹部における改善活動を展開してきた。しかし、計画したアクションプランの達成のために必要となる現場メンバーの育成が課題となっている。この事例を通して、改善活動を実際に実現させていくには現場の協力と育成が必要となる実態をまとめている。

 

Ⅰ.はじめに

1.N社の概要(2010年から2013年までの変化)

【N社の企業概要(2013年8月時点)】

事業内容 機械・装置の設計・製造・販売
資本金 90,000千円
売上高 1,014,986千円
従業員数 48名

 

N社では、改善活動をスタートした2010年度以降、継続して利益を出している。継続した利益の創出に伴い、自己資本比率が改善傾向にあり、継続した利益の算出がなされ、内部留保がされている点は当社の長所である。

2010年度から2013年度までの中で、製品戦略の見直しやコストダウンによる限界利益率の改善や幹部のアクションプラン作成などにより、黒字化と利益計画の達成をしている。経営幹部による役員会を毎週開催するなど、マネジメントシステムも強化し、経営幹部の行動力は確実に向上してきている。

しかし、2013年度の下半期より計画未達成が続いており、2013年度は計画未達成となっており、営業力の再構築が最重要課題になってきている。設定したアクションプランの未達成が続くことや部門責任者が既存事業への対応に追われてしまっている。計画達成のための課題への取り組みを行っていくうえで、現幹部以下の営業活動の再構築を図っていくことが必要となっている。

また、毎期重点施策として市場開拓等を上げており、今期より役員の行動計画とその管理として週報を導入し、役員自身のPDCAサイクルの実践と実行力向上へと取組んでいる。

 

2.N社における改善活動の全体像

(1)改善活動の全体像

 N社では、2010年度より、改善活動を展開している。活動の全体像は、図表1に記載している。まずはじめに、①全社的な改善活動からスタートし、経営幹部へと展開してきている。今後、現場への展開を図っていくことが必要となっている段階である。

図表 1:改善活動の全体像

 

(2)労働生産性の変化

N社における改善活動として、2010年度に不採算部門の撤退により、固定費を大幅に削減し、利益体質への転換を図った。その後、コストダウンや営業力強化等により、利益体質を実現、2011年度は計画を達成し、2012年度も計画達成となった。しかし、2013年度の下半期より計画未達成が続いており、2013年度は計画未達成で終わっている。

労働生産性の変化(図表2参照)を見ても、2011年度は、2010年度から大幅に改善している。これは、2010年度から取組んできた全社的な改善活動の成果である。しかし、2012年度から2013年度にかけては減少しており、利益計画達成のためのアクションプランとして設定した計画の未達成が続いている。

 

図表 2:労働生産性の変化

 

Ⅱ.N社のこれまでの取り組み(全社的改善活動の実施)

1.N社の改善活動開始当時の状況(2011年8月)

(1)経営状況

N社では、年々受注が減少していた不採算部門があった。そのような状況の中、リーマンショックによって、受注が激減した。その中で、行っていた新規工場への投資が重荷となった。さらに、下記の様な状況にあった。

①経営目標の不明瞭さ

経営目標が不明瞭なため、誰がいつまでに何をどうやって行うのかも各人の裁量に委ねられ、人材育成も後回しにされてきた結果、部分最適に走りやすい組織風土になっていた。そのため組織として戦うことができず、停滞~衰退市場では戦うことができていなかった。

②新事業開発(販路の構築含む)のスピードの鈍化

事業を開発していくスピードが鈍化している。特に新製品が開発されてから2011年当時6年が経っているが、未だに販路が整備されておらず、事業として成り立っていなかった。

③マネジメントシステムの脆弱さ

マネジメントシステムの形式はある程度整っている部分もあるが、うまく活用できていない。特に部長クラスの権限と責任が不明瞭であるため、形式だけが先行していた。

(2)人と組織の問題

①人の問題

1)現場

    社内教育については、体系的な育成システムがない。中堅社員には毎年1回、2~3名をピックアップして、自己啓発セミナーに参加させている。体系的な育成システムがないため、技能、技術が各個人のスキルになってしまっているという課題を、各部門が抱えている。営業では、機械装置に関する知識が共有化されておらず、各営業マンのパフォーマンスに大きな開きがある。またその育成責任及び権限も認識されていないため、提案型の営業が中心である当社は、2~3名程度しか受注できていないのが現状である。

目標管理制度を導入していたが、うまく機能しなかった。その理由としては、生産・設計の目標設定が抽象的になってしまったことがあげられる。新人に関して、一定の期間のスキルアップ制度も設定できていない。

    また、育成体制のなさから、顧客からの要望事項を勘違いや理解できずに間違え、機械の設計ミスや不具合の発生につながるケースもある。

    営業に関しては、報告が無い、報告書の内容が分からないといった工場の製造部門からの不満も出ており、コミュニケーションにも課題がある。

   2)管理者

正社員の平均年齢(役員含む)は、2011年当時48.5才と高齢化が進んでいる。人材育成システムもないため、長期的には技能の伝承に大きな障害が発生する可能性がある。

その顕著な例に挙げられる点として、現在の中核人材となっている多くが、中途採用によって入社してきたという点である。叩き上げの人材が幹部になっていないということが挙げられる。そのため、中核人材は優秀であるものの、組織よりも個人の成績が優先され、力が分散してしまっている。

当社の営業は、基本的には代理店を介した待ちの営業である。営業部門の管理者においても、個人の力量に任せている部分が多く、代理店から紹介されたエンドユーザーを訪問するだけで、各営業マンは手一杯という状況とのことだが、営業マンの稼働及びプロセスの管理はされておらず、営業日報も取られていない状況だった。不採算部門からの徹底に伴い、部門移動のあった営業マンの育成に早急に取り組まなければならないという認識はあるが、育成の仕方が分からないとなってしまっている。

3)幹部・社長

 上記の現場・管理者の問題は、社長・幹部の課題である。第一に管理者へ任せることが出来ず、幹部が管理を行っている現状がある。また、管理者への指示が明確にならず、やらせきることが出来ない。

  ②組織の問題

計数に基づく意思疎通が不足しており、達成レベルの風土化が出来ていない。さらに、各個人の力量で行ってきたため、複数名で協力して行う具体的プロジェクトへの展開が不足している。

 

2.これまでの取組み事項(2011年8月から2013年7月まで)

N社における改善活動として、2010年度に不採算部門の撤退を行った。その後、コストダウンや営業力強化等を図った。役員(社長・経営幹部)による週間ミーティングの実施することで、幹部の権限と責任を明確にして、毎月のPDCAサイクルを回せる予算管理と活動管理を実行できる体制を構築することへと取組んだ。

具体的には、各部門の売上・利益目標のみならず、活動目標(アクションプラン)と生産性向上目標を明確にして、活動管理を中心としたマネジメントシステムを再構築することである。アクションプランを実現していくためには、それを実現するための組織力が重要であるため、人材育成を含めた教育計画も盛り込むことが必要不可欠となる。

 

3.2年間での活動成果と課題(2011年8月から2013年7月まで)

(1)これまでの成果

数値上は、順調な滑り出しを結果として残せたことは大きな成果である。また、不採算部門の撤退についても損益に大きくプラスに貢献しているといえる。2年間での成果を具体的に述べると次の通りであるといえる。

①役員層のコミュニケーション機会の向上

②役員層の経営数値の理解による計画実行度の向上

③不採算部門の撤退による固定費の削減

④これらの実現による利益率の向上(経営成果)

 

(2)課題点

①受注高の減少

当社の売上高は、約1,014百万円と2008年度の約1,104千円から減少傾向にある。現状では、経常利益は継続してプラスである。継続した利益の創出に伴い、自己資本比率が改善傾向にある。

  ②行動計画の未実施

しかし、2010年度より黒字転換へと改善が図られているが、各重点施策においても、達成できないものがあることや計画に対して未達成が続くなど、部門責任者が既存事業への対応に追われてしまっている現状がある。計画達成のための課題への取り組みを行っていくうえで、現幹部以下の営業活動の再構築を図っていくことが必要である。

  ③営業力の再構築

不採算部門の撤退により、固定費を大幅に削減し、利益体質への転換を図った。その後、コストダウンなどにより、利益体質を実現、取組みを始めた初年度を計画達成し、2年度目も計画達成となった。しかし、前期の下半期より計画未達成が続いており、営業力の再構築が最重要課題になってきている。また、新規事業の分野開拓が停滞するなどの課題も出ている。

④現役員層による利益体質の確立

  既定路線となっている現在の戦略に基づいて、安定した受注体制を構築することが、現役員層の役割である。そのためには、現役員層には一層の経営責任の認識とマネジメント力の向上が望まれる。

⑤中期ビジョン、特に新事業開発のための次世代層組織づくり

  中期ビジョンだけではその目標は達成できない。具体的な戦略とそれを実行していく経営資源を適正に配置する必要がある。予算は当然であるが、更に重要なのは実行していく「人材」の確保と育成である。具体的には、中期ビジョン、特に新規事業の開発については、現経営陣だけでなく、次世代層から人選をして、プロジェクトを編成することが必要である。

 

Ⅲ.N社の現在の取り組み(経営幹部への展開)

1.各幹部の取組目標の明確化と週間での管理体制の導入(2013年8月から)

(1)取り組みの概要

 経営幹部による役員会を毎週開催するなど、マネジメントシステムも強化し、経営幹部の行動力は確実に向上してきている。また、毎期重点施策として市場開拓等を上げており、今期より役員の行動計画とその管理として週報を導入し、役員自身のPDCAサイクルの実践と実行力向上へと取組んでいる。

新規事業の専門部門も立ち上げ、新規市場開拓も成果を上げつつあったが、現幹部役員が既存事業への対応に追われ、活動のスピードが遅れた。幹部が既存事業への対応に追われないよう、幹部以外の次期人材の育成を進める必要がある。

利益計画の達成には段階がある。全社でこの段階を達成していくには、各階層間が計数に基づいた意思疎通が出来ることが必要である。目標数字の達成は幹部に責任がある。経営会議の場で数字(計数)に基づいた報告が出来ることは現場にも指示が出来ることにつながる。(図表1参照)

 

図表 3:利益計画達成のために

 

課題である重点施策の目標達成は、月次・週次・日次での行動目標管理とその達成の積み重ねから出来る。そのため、N社では、幹部からの計数に基づいた行動管理と報告への取組みから改善活動を実践してきた。今回は、幹部の改善活動の展開を取り上げていく。

 

(2)週報導入の目的と導入にあたってのスケジュール

【週報導入の目的】

①「達成レベルの風土化」

  会議のレベルを上げていくため、幹部のPDCAサイクルの経験を積む。幹部が管理者へ指示を出す際の、幹部間での共通的な価値基準を持つ。

②「プロジェクトの具体化」

目的に沿った期間(四半期・月・週・日)での計画への具体化

③目標の明確化

幹部の自己評価の練習と目標に対する責任能力の向上

④報告・連絡・相談の徹底

 課題となっている事項の明確化と問題を自分から報告する体制の確立。報告事項の明確化と、会議における問題対策への有効な時間活用の促進。

 

(3)導入の進め方

①社長の経営目的の明確化

  現経営体制での問題と後継へ向けた課題の検討として、現幹部以下の育成状況を考 えてきた。現幹部の平均年齢が50歳台になってきたこともあり、現幹部以下の次期幹部メンバーの選定を考えた際、該当するメンバーがほとんどいないことが浮き彫りになった。そのため、まずは、現幹部が計画の達成を含めて、各部門の責任者として、行動していく必要が認識された。幹部自身が達成レベルに厳しいと、上からすれば安心感につながる。下からすれば充実感、達成感につながる。これは日々の緊張感がなければできない。充実感は壁を乗り越えて初めて感じるものである。この達成レベルに厳しくなるにまずは幹部からの行動見本として、各部門の重要課題として上げている施策の達成に向けて行動管理・報告をしていくことを通して、実践していくこととした。

②幹部への取組目標の明確化とその合意

次世代幹部候補である管理者への展開を図るために、現幹部の課題に沿った目標の設定を行った。この取組みからスタートしていくに当たり、社長が考える各幹部へと取組んでもらいたい課題について、説明を行い、面談を通して具台的な目標設定を一人一人と時間を取って実施した。

③週報管理導入にあたっての幹部研修の実施

 週報管理の導入にあたって、幹部への週報管理導入の目的の説明と幹部との合意を得ることを実施した。この段階でスムーズな導入が行えたのは、社長の幹部への事前の説明・面談を行ったという行動によるものが大きい。

また、研修の中では、運用に向けての帳票整理と運用体制の整備と合わせて、これまでの利益計画達成のための具体的施策の不足点の確認を実施した。これまで利益計画達成のための重点取組課題として掲げられてきた取り組みは、年間での目標が記載されるのみで、具体的な数値目標・実現可能性についての情報が見えず、検討が出来ない状況であった。

幹部での運用にあたり、毎月月曜日の役員会議での定例報告事項とした。週報での運用はPDCAサイクルを回す回数を増やす為にある。これまで年間での評価のみとなっていたが、例えば月報では年12回しかPDCAサイクルが回らないということになる。週報では約50回程度回すことが出来る。

④週報管理の導入

 週報では、達成状況に対する評価を記入すること。達成できていない場合にはそれに対する評価・コメントを必ず記入することの徹底からスタートしている。

役員会議では、計画が達成できていない、または達成できないと予測される内容に関しては、具体的な対策を検討し社長へと事前報告した上で参加することとした。

 社長は、必ず事前に提出された幹部の報告に対して、コメントを徹底して実践することとした。それでも、課題がある場合には毎週月曜日の会議で重点議題として取り上げ、全役員で達成のための対策を再度検討することして、会議の運営方法の改善を図った。

 会議で課題となった事項は、担当幹部へのフォローアップ面接として、社長との個別面談を実施することとした。

2.導入後半期経過時の現状と課題(2013年8月から2014年1月まで)

週報での管理を役員から実践して、半期が経過したが、結果として設定されたアクションプランの目標は大半が達成されていない・達成できないといった実態が明らかになってきた。

この中には、①部下にやらせることが出来ない。②何をやらせればよいか分からない。③部下がなぜ出来ないのかが分からないといった意見が上がってきている。

役員メンバーが達成可能な計画を立てても、実際に実行する現場メンバーがいないという課題点が浮き彫りになった。

 

Ⅳ.まとめ(成果と今後の課題)

1.改善活動の成果

改善効果は大きく、以下の4つである。

①週報管理の定着化(PDCAサイクルの確立)

②重点施策の目標の数値化と期限の明確化(計画の緻密化)

③具体的施策の進捗状況の見える化

④取組みを通した部下育成の必要性の認識

今回の取り組みは、幹部の行動見本を通した部下の指導・育成が社長の思いである。それに対して、取組みを進めていく中でその認識が幹部に出来たことが成果である。

 

(2)今後の課題

①計画達成に対する遅れの発生

現場からの報告が無いなどとして、計画に対する進捗が見えないケースも見られるなど、幹部の責任能力が課題となっている。

  ②管理者育成の不足

管理者へやらせるべき事項の明確化が出来ておらず、結果として計画よりも進まないなどの課題がある。

  ③現場との計数に基づく意思疎通の不足

報告をさせることが出来ないことに加え、幹部がそれぞれの管理者・現場の状況へと積極的に関わることが不足していることが毎週の報告の中で表面化してきた。

  ④具体的な現場改善の実施

今回は、幹部に対する週報の導入のみとなっており、その下の管理者・現場に対しての具体的な改善活動の展開まで進んでいない。改善の核となるリーダー(5人の中の1人)の選定をしていくことで、現場改善へとこの週報管理からスタートしたPDCAサイクルの定着と運用を現場の行動レベルまで落とし込んでいくことが必要である。

  ⑤その前提となる幹部の指導・育成体制の確立

5年先を考えた場合に必要となるのは、次世代メンバーの育成である。そのためには、現幹部が社長との合意を通して、部下の指導・育成へと取組んでいく必要がある。

 

2.N社の今後の取り組み(現場メンバーへの展開)

今回、役員から実践してきたアクションプログラムの週単位での管理体制において、認識された課題である次世代層のメンバーの育成へと取組んでいくことが同意された。

N社では、これまで人材育成が課題であるとの認識はあったものの、何を行えばよいか分からないという状況にあった。まずは、営業研修として次期リーダー層となるメンバーの選定へと向けて、計数管理と週単位のPDCAサイクルの導入を進めていく。

この現場メンバーの育成を通して、初めて社長・幹部が立ててきたアクションプログラムを実際に実現していく実行力を得ることへとつながる。

 

以上