2015/01/28

データを活用できる組織づくり

Ⅰ システム導入と活用の流れ

【図表Ⅰ-1 販売活動の流れとシステム】

1 経営・営業を取り巻く環境の悪化

「長期的な付き合いがあったのにもかかわらず、既存顧客が競合他社にスイッチした。」

「これまでは当社との継続取引だったのに、今回は入札・相見積になった。」

「既存顧客の数は多いが、逆に個々の顧客の状況が把握できなくなっている。」

「上位顧客のフォローは徹底していたが、売上高下位顧客からの売上高が激減した。」・・・

失われた20年と言われる日本経済の厳しい情勢の中、日本企業はコスト削減を繰り返してきた。また、差別化を志向しながらも、顧客需要と製品技術の成熟化が進んだ中では、実際にはコモディティ製品が増え、価格競争は激化した。

その失われた20年でのコストカット・価格競争を経て、近年では再度の技術力強化・イノベーション、ビジネスモデルの再構築など利益を得るための活動に注力する企業があれば、コストカットを追求する企業、その両方を志向し続ける企業(大半がこれにあたる)があり、これまで以上に顧客の行動や購買意欲は読みづらくなっている。

このような状況下で、営業パーソンは単一的に製品力を顧客に売り込む行為だけでは、売上高を確保することは難しくなり、新規顧客開拓が鈍化しただけでなく、既存顧客との取引すら安定しなくなってきている。

一方で、BPRの流れから、ERPの導入などにより、企業は情報の統合・システム化を進めていた。これにより、財務情報だけでなくの製造、そして営業活動に関する情報など、様々な情報を社内に蓄積してきた。

この蓄積した情報を活かし、個々の顧客情報や営業パーソンの活動を分析し、より効果的な営業活動を行うことを志向する企業が近年増えてきている。

2 システム導入の流行

ERPだけでなく、より戦略的面からCRM、SFA(通称:セールスフォース)という名のパッケージが出始め、近年まで多くの企業が導入を進めてきている。直近では、BIツールが再度脚光を浴びてきている。

しかし、実際のところはそれが機能している例は少ない。多額の金額を投下したにもかかわらず、これでは意味がないと嘆く経営者・管理者が後を絶たない。

それではどのようなデータの収集・活用の阻害要因が企業内、特に法人営業では生じているのだろうか。図表Ⅰ-1を見ていただきたい。これは、営業に関するシステム・パッケージと対象となる業務および部門の概略図である。

CRMは2000年前後に流行した経営コンセプトであり、システムの通称でもあるが、統合型CRMというのが近年出てきており、上記の活動を包括的に管理し、マーケティング、営業活動に活用できるようになってきた。元々は、ERPが企業全体の業務活動およびそれに付随する情報を、統括的に扱っており、現在もそれは変わらないが、それに付随する形で営業・顧客管理を強化するのがCRMというのが現状である。

図表Ⅰ-1に戻って、より細かい区分で見ていくと、営業活動に対してSFA、営業活動から上がる売上などの財務・経理情報や、製造依頼情報などはPMBやERPの機能を、販売後のアフターフォローに関しては、CSなどがCRM機能の一部として該当している。

その中でも、管理が難しい営業パーソンの活動を把握し、より効率的な営業活動をしようという流れを受けて近年流行したのがSFAであった。また、CRMよりも前に流行したのが、顧客満足経営というコンセプトで、それに乗りCS管理ソフトも出てきた。

しかし、ERPも含めてCRM、SFA、CSシステムを導入しても活用できないという事例が多い。また、導入するべきか否か迷っている企業も未だに多いというのが、日本企業、特に営業現場での実情である。

なぜこのような状況になっているのか。これは、各システムに関して詳しく見ていくと、その要因が隠されている。

2 システムの背景と問題点

営業現場に関わるシステム・パッケージと流行してきたものは、ERP、CRM、SFAなどがある。BIツールはこれらのシステム・パッケージによって収集されたデータを、経営判断に活かすために開発されている。

しかし、BIも含めて、これらのシステム・パッケージにはいくつかのコンセプトと実態の乖離が生じた。特にそれは、営業現場で顕著に見られる傾向である。

ここでは、どのような背景で導入され、そしてそれらにどのような問題を抱えていたのかを見直していくことで、なぜ、営業現場・経営において、これらのシステム・パッケージが機能しなかったのかを見ていく。

①ERP(Enterprise Resource Management)

~コンセプトを実現できない高価な製品~
【概要】

ERPは、営業は見積から受注情報など、製造は生産計画から指図などの部門をまたいだビジネスデータを一元化し、財務会計データと連動した正しい情報へのリアルタイムなアクセスが可能にするなど、豊富な業務機能を提供するパッケージシステムである。

また、部門独自のシステムを開発したり、パッケージシステムを導入するなどを行い、全社レベルのデータを連動させたり、分析することが困難になったので、”データ一元化を行うため”に、逆説的にERPでデータを縛る企業も多くなっている。

【メリット・課題】

メリットとしては、情報一元化により、問題の早期発見やタイムリーな経営判断が可能な事や、適切な権限設定による内部統制の実現出来る事が挙げられる。自ら基幹業務システムを開発するのに比べて、一般に短期間でシステムを稼動させることが可能で、保守面

でも負担が小さいのがメリットである。

一方で、良くある例として、当初に立てたERP導入スケジュールを遵守するために、十分な設計検討時間が無く、結果として旧システムのリバイズとなるケースが多く見受けられる。

また、システム上の使い勝手を考え、現場主導で旧システムに近づけたため、業務の複雑性に対応しにくいシステム(旧システムと同じ弊害を持つ)となるケースもある。

ERPは業務改善システムであるため、BPR(Business Process Reengineering)と同時に導入が進められたが、その分、戦略をベースに設計をされることは少なかった。そのため、後々、戦略に活用しようと考えても、使えるデータが収集できていない、収集されても、それがどのようなデータで、経営にどのように活用できるのかもわからないため、分析ができないという課題を抱える。

②CRM(Customer Relationship Management)

~真の意義に達しなかったコンセプト~

【概要】

そもそもはシステム名ではなく、Customer Relationship Management(顧客関係・取引管理)という経営思想だった。顧客のニーズが複雑する中で、従来の市場としての捉え方では括りが大きすぎ、より個別化する顧客の実態と、自社の市場を捉え方(捉える規模)が乖離してきた中で、より正確な顧客像を把握し、儲かる顧客・儲からない顧客、成長するセグメント・鈍化するセグメントなどを把握することの必要性を訴えかけたコンセプトである。

後にOne to One マーケティングとつながり、個々の顧客の把握をしようという流れになり、個々の顧客に関する膨大なデータを処理するため、システム・パッケージとつながっていき、CRMパッケージが続々とリリースされ、ERPにも組み込まれていくようになった。

【メリット・問題点】

そもそものコンセプトの長所は、データから導き出された顧客像(嗜好、消費パターン、組織特性など)をもとに、向かうべき市場セグメントを把握し、営業・マーケティング戦略を明確にする戦略的な面を持っていた。そのため、顧客特性に合わせた製商品・サービスのクロスセリング、ワンストップサービスを展開することで売上高を伸ばすという、戦略的思考を含んでいた。

システムとしては、顧客データベースの流れをくみ、営業のデータ化をするという仕組みを持ち込んだシステム・パッケージでもある。

しかし、最大の問題点は営業情報・顧客情報を戦略に落とし込むプロセスが根付かなかった事にある。また、データを分析し、戦略に昇華させるための分析手法は複雑・不明瞭で、実際にはCRMを用いても、自動で戦略に役立つ情報をダイレクトに出すのは無理で、分析の内容を読み解く必要があるが、それができる人材が少なかったというのが、なによりも大きな問題だった。

そのため、そもそもどのようなデータを集めるべきだったのか、どのようにデータ分析していいのかが分からず、データ収集が戦略に結びつくことが実際には起こらない例が多かった。

③SFA (Sales Force Automation)

~営業パーソン管理に使われる嫌われ者~

【概要】

CRMの流れを汲み、進化した営業用のシステム・パッケージである。実質的にはCRMの一部企業として、営業パーソン各人の生産性を上げるためにつくられたシステムで、SFE(Sales Force Effectiveness)という営業生産性を向上させるコンセプト(プログラム)が基になっている。

【メリット・問題点】

営業スケジュール管理、電子メールの自動受付・分配機能など、営業パーソンの行動管理や、引合の管理の自動化がされる機能を持ち、また、伝票作成や顧客への資料送付等送付の簡素化など営業パーソンの間接業務負担の軽減につながる機能を揃えている。

また、営業の管理職にとって、外に出ると何をしているのか分からない営業パーソンの生産性管理ができるというコンセプト自体は、役立つものであったと言える。

しかし、営業パーソンにとっては、間接業務面など楽になる面がある一方で、スケジュール管理と営業プロセス管理により、行動チェックをされる厄介なものと感じられることも多かった。こうなると、営業パーソンはアレルギー反応を起こし、システムから遠ざかる。結果として、重要なデータが集まらないどころか、何にも使われなくなっていくことになり、システム投資はまたも無駄に終わってしまう。

3 これまでのシステム導入の課題

【図表Ⅰ-2 各システム導入の課題】

これまでのシステム導入の問題点は、ERP、CRM、SFAなどのシステムの問題点は共通して、「何のためにという、前提が無い状態でのシステム導入」ということである。

ERPでも「何のために」がないために、後々リバイズを繰り返すことになったり、CRMでは集めたデータの使い方がわからなかったり、挙句、SFAでは情報が入力されないという問題につながっている。

もう一点、同様の問題点として、システム導入に対応する組織体制ではないことが挙げられる。特にSFAの場合に顕著であるが、情報活用するという組織体制にないために、情報が入力すらされないということにもつながる。これは前提としての「何のため」ということもあるが、やはり人的な問題も孕んでいて、それに対応する組織でなければ活用はできない。

店舗がある小売店等の販売実績管理はPOSデータによって行われ、また、BtoCマーケティングの発展もあり、活用方法もある程度定型化されている。一方の営業では、MR(メディカル・リプレゼンタティブ)などの製薬会社の営業などは、かなり統率が取れており、情報の活用と収集に関しては、他の業界よりも進んでいるが、一方で、産業財関連の法人営業ではなかなかそうはいかない。ほとんどの会社で情報が入力されない、精度が疑わしい状況にある。

このように、システム導入で浮かび上がるのは戦略と組織制度の問題である。当初は、それらを解決するために、という謳い文句で導入された各種システムであったが、実際には戦略と組織制度が構築されていない企業では、システムは機能しないということが、これまでの企業の失敗の流れの中で把握されてきたことである。

Ⅱ BIツールと諸問題

1 BIツールと人材の不足

【図表Ⅱ-1 BI導入時の課題】

出典:キーマンズネット(リクルート)

ここまでERP、CRM、SFAの導入とその活用がされなかった理由を見てきた。しかし、近年、社内に情報が大量に集まっている現状を活用も、システムで解決しようという動きも出てきている。

それをサポートするのがBI(Business Intelligence)ツールである。BIツール自体は10年ほどの歴史を持つが、BIという言葉自体には30年ほどの歴史がある。

BIという概念はリサーチ会社のガートナーに在籍したハワード・ドレスナーという人物が考案した概念で、データ分析をするには、その実情をよく知る現場の人間が行った方が効率的との考えからだった。

しかし30年後、ビジネスも企業もより高度に発展したはずの日本企業に、BIツールを導入した結果起こったことが、上図表Ⅰ-2の通りである。

「分析を行うノウハウ・能力を持った人材がいない」、「分析結果や指標をどう経営や事業に活用すればいいのか分からない」という理由で、BIツールの活用が妨げられている。また、このアンケートは実際にBIツールを導入した、ないしは導入予定の企業の意見だが、これらの企業はBtoC(一般消費者向け)ビジ

ネスを行っているところが多く、BtoB(法人

取引)ビジネスを行っている企業では、BIツールの導入が遅れているのが現状である。

なぜ、このような状況になっているのか。これには、アンケート結果の様に活用できる人材の不足や経営分析に関するリテラシー不足という問題だけでなく、実際には日本企業の組織形態の問題、経営意思決定の欧米企業との違いも大きく影響しているとみている。

3 日米企業の違いとBI活用度への影響

図表Ⅰ-1をもう一度見ていただきたい。実はこの図に、法人営業ではBIツールだけでなく、そもそもCRMが活用されなかった、端的な理由が載っている。

CRMに置いて最上段に来るのが、市場セグメンテーションとターゲッティングである。これは営業戦略の要であり、営業戦術の前提に当たる。つまりはこれを受けて、営業活動を行い、その結果をもう一度、営業戦略や戦術にフィードバックする必要がある。

しかし、その重要な市場セグメンテーションとターゲッティングを担当するのは、「マーケティング部門」となっている。日本でも近年増えてきてはいるものの、大手企業でも100%あるわけではないし、中堅・中小企業となると営業と分離して、専門にこの分野を行う部門といてあることはほとんどない。また、BtoC企業には比較的多いが、BtoB企業にはほとんどないというのが実情である。仮に「マーケティング部門」という名前の部門があるとしても、広報・プロモーション専門にする部門になっている。

このように、そもそもCRMやBIの前提になる部門が無いのが、日本企業の実情で、その中でシステムを入れても機能しないというのが、BIツールやCRMが機能しない一つの理由である。

もう一つの問題は意思決定フローの違いが挙げられる。欧米企業はトップダウン型、日本企業はボトムアップ型というのは、よく聞

【図表Ⅱ-2 営業プロセスの違い】

く話だと思う。一概にそうと言えない部分もあるが、戦略策定等のプロセスに関しては、これは未だに言えることである。

日本型がダメとか、欧米型が云々ということではなく、これはBIの特性とその活用に関して、影響を及ぼしている。

欧米型としている方は、営業戦略の立案、営業戦術の立案、KPI(Key Performance Indicator)設定、営業活動の実施、製造等を通して、その後アフターフォローという形になっている。実際には、欧米、特にアメリカの場合、アフターフォローは、日本企業に比べると圧倒的に劣っており、この部分に関しては、あってないようなものだが、とにもかくにも教科書通りに近いのが、欧米型の営業プロセスにおける意思決定の流れである。

一方で日本企業の営業プロセスにおける意思決定、特に法人営業の場合は、そもそも営業戦略は明確にはない。ここで言っている営業戦略とは『市場セグメンテーション⇒ターゲッティング』を行うことなので、単純に経営計画にターゲットはここで、いくらくらい売りますと書いてある”営業戦略”とは違う。

しかしその分、日本企業の営業面で強いところは    人的な営業の強さ・顧客とのつながりである。顧客からのフィードバックなどはデータではなく、社内においても人的コミュニケーションによって行われ、それが営業戦

術に反映されて、個々の顧客に対するフォローアップ体制は強くなる傾向にある。

紋切り型に分けているが、実際にはこのレベルの差は様々で、日本型と欧米型の間に位置することが多いが、傾向としてはこのような状況であると言っても過言ではないだろう。

しかし、BIツールを適用して、効果を発揮するのはどちらだろう。これは明らかに欧米型と言える。

そもそも、BIツール、特に大半を占めるパフォーマンス管理型のBIの場合、KPIの設定が無いことには、BIは機能しないからだ。また、KPIは戦略⇒戦術の流れの中で、何を達成するのかを明確にしなければ、設定できない。

そのため、日本型の営業プロセスでは、BIを入れるにもKPIがないために、先のアンケート結果の様に、「どのように使っていいのかわからない」という事態を引き起こしてしまう。

4 BIが機能しない理由

ここまで見てきたシステムとその導入後に生じる問題の要因や、人材、組織上の問題には共通点がある。それは「営業戦略の欠如」である。

人材の不足という問題も出たが、そもそも、「どのように使うのか」を決めていなければ、相当な経営リテラシーの高い人材でなければ使えないことになる。BIの当初の概念が「分析部門ではなく、現場が情報を収集・分析すること」であることから考えても、そのような人材がいないからできないというのは、おかしな話である。

また、そのような状況では「集めるべきデータ」も明確ではない。そのため、社内に蓄積されている情報が、そもそも必要十分なものなのかどうかという点でも問題を抱えている。

特にBtoCマーケティングと、BtoBの法人営業はルールが違う。集めるべきデータも当然違うし、また、人に情報が依存しやすいために、営業パーソンが持っている重要な情報が、システム上に無いということが往々にして起こっている。

Ⅲ データを活用できる組織へ

1 営業戦略は不可欠に

ここまで、ERP、CRM、SFAなど、日本でも導入が進んだシステムと、これからそれらシステムに蓄積されたデータを分析するために注目されるBIツールに関してみてきた。

どちらにしても問題は共通であり、主なものは「戦略の欠如」がその要因だと言える。

 冒頭でも述べたように、日本においても、また、海外に目を向けるにしても、市場状況の複雑化は進んでおり、データを活用することは必須となっている。データが企業の優位性を決める時代がもうすぐそこまで来ている。

しかし、データを営業現場で使うには、何度も言うように、前提とする営業戦略が必要である。今一度、自社の営業戦略を見直していただきたい。

また、これに関しては、このレポートで述べると長くなるので、別途レポート「売上高低迷の時代に必要なコト~BtoB法人営業の競争力を高める戦略~」を御参照いただきたい。

2 情報を活用できる営業組織へ

もう一つ出てきた問題は、SFAで顕著だったように、そもそもデータ入力すら進まない、分かっていても入れないという問題である。

また、店舗販売の現場でPOSがあるような一般消費者向けビジネスと違い、法人営業の現場では、営業パーソンに情報が依存するため、「情報を入力する」という行為が重要になる。それをどのように推進するかという面では、組織的な工夫が必要である。

①営業チームで管理する

法人営業は個人技になりがちで、あまり隣部門で、自分の担当の企業との取引状況に関して情報共有し、部として対応していくことは少ない。よほどのことがない限り、自身で対応していくのが常である。

しかしこれによって、営業パーソンがデータを入力しなければならないと思わない、というのも事実である。

今後、データを収集・活用しておこうと考

【図表Ⅲ-1 チーム制によるデータ管理】

えているならば、法人営業にもチーム制を敷くことが必要である。

ただし、日本の法人営業現場でも、対応する業界ごとに課を敷いている例が多い。そのため、実際には営業にチーム制を敷くということは、新しいことでも難しいことでもない。

それでは、なぜ改めてチーム制なのか。それは、分析を実際にする人間をチームのトップにするということが、データの収集にも効果を示すためである。

図表Ⅲ-1の様に仮に5人の営業チーム(人数は多すぎてはいけない)を組み、その中でデータ管理・分析をする人間を決めておく。その担当者に売上高・利益責任を持たせ、売上高・利益の向上だけでなく、その変動の管理も担当させる。また、各チームに対して、その上に立つ上長(部長、課長等)が、毎週、毎月、その状況の説明と、増減要因、対策を突き詰めていく体制にする。

ここで、チームリーダーを補助するのに、BIツールが使える。「なぜ売上高が落ちたのか⇒どの顧客の売上高が落ちたのか⇒その顧客に売っている何の製品なのか・・・・」という風に、BIを使えば「ドリルダウン」で落とし込んでいく分析をさせたり、地域的に期間的に見ればどうなっているのかなど「スライシング」や「ダイシング」などの、BIの基本的な分析補助ツールを使って、自分で四苦八苦しながら分析してもらう。このような基本的なツールであれば、システム導入ベンダーも説明してくれるし、説明される側も使いやすいものである。

このような組織体制にすることは、短期的には、起こった事象(顧客の異変、競合の出現等)に対して、現場レベルで迅速な対応が可能になり、中長期的には、戦略立案ができる人材を社内に抱えることが可能になるという効果も持つ。そして、最も根本的な問題でもあるデータ収集に関しても、少人数のチームで各人の管理をしていくことと、上長による結果・要因説明を追求する体制にすることで、否が応でもデータが必要になってくる。

また、戦略・戦術からアクションプランまで落とし込まれて、チームが”やらされている”だけよりも、自分たちで考え、行動する方がモチベーションも上がりやすい。

ただし、実際には初期導入段階では混乱も生じやすい。各リーダーの分析能力を地道に上げていくことで軌道に乗る方法のため、最初の一年は様子見をしながら、とにかく継続させることが重要になる。最初の段階でうまくいかないのは当然なのだが、その時点ですぐにあきらめるという例が多い。

すぐにやめるのではなく、部課長も各チーム長にどのように分析を進めるのかを共に考えて最初にやっていくことが重要である。パイロットチームをつくって、部課長自身がそのチームのリーダーを兼任し、事例を社内に一度つくるのも効果的である。

②データの収集・活用を評価項目にする

データを収集すると言っても、何を入れるのかという問題がある。これに関しては、別途レポート「売上高低迷の時代に必要なコト ~BtoB法人営業の競争力を高める戦略~」を御参照いただきたいが、これにより管理すべきもの、すなわちKPIを設定したとして、話を進めていく。

ここまで見てきたように、データ収集・活用は、今後企業の生命線になってくる。その中で、データの蓄積不足は競争上致命的だ。そう考えれば、データ=財産なので、それだけのものを蓄積した営業パーソンと、何も入力していない営業パーソンの評価が同じであることはおかしい。

現状で売上高を挙げる営業パーソンも重要なのは間違いないが、企業の長期的な価値に影響を与えるデータの入力も非常に重要になる。そう考えれば、データの入力も人事評価、インセンティブの対象にするべきであろう。

ただし、とにかくデータを入れたらインセンティブがつく、とするとシステム内が使えないデータで溢れるということが往々にして生じる。データの精度が極端に落ちれば、今度はデータのスクリーニングにも時間がかかり、システム内のデータ全体が使い物にならなくなる。

そこでまずはチーム制と連動させる。分析にデータを使うチームリーダーが、その営業パーソンの情報が仕えたかどうかを評価するというのが最も簡単な方法である。

それ以外では、自分自身で一年間の営業結果とその要因を、データをもとにまとめてみることである。つまり、一年ごとに自身に関して、チームリーダーと部課長との間でやり取りする内容を、チームリーダーとの間で報告し、それを評価の対象とするという方法である。

ただし、どちらも定性的な判断になるため、必ずデータの入力量と並列して評価をしていくべきである。

実際の現場を見ていると、そもそもできる営業パーソンは、自分でデータをまとめ、それをもとに対策を打っていることが多い。ヒアリングに行くと、過去・現在合わせて、どのような状況と結果を出したのかを、詳しく教えてくれる営業パーソンほど、営業成績が出ているだけでなく、管理職としてもうまくいっている。

そのため、この方法は導入すれば、できる営業パーソンと、できない営業パーソンを、人事考課上もはっきりと分ける効果がある。

ただし、できない営業パーソンを切り捨てろというわけではない。その営業パーソンの何ができていないか、データの入力自体をしていないからなのか、データの活用の仕方が分からないのかが、これによって判明するので、そのできない部分をチームリーダーなり、上司がフォローすればよいことになる。

そのため、インセンティブ制度はモチベーションアップのためだけでなく、営業パーソンの育成にも直結するものとして有効である。

是非とも貴社での適用を検討していただきたい。

2012年 川満俊英