作業スキル向上による現場改善
作業スキル向上による現場改善
人の作業スキルは生産性に影響します。機械が中心の工場であっても、それを扱う人のスキルによって、機械が充分に活かされない場合もあります。だからこそ、計画的に人材育成を行っていくことは生産性向上と大きく関係してきます。今回、作業スキルを見える化し、教育による改善効果を測定するまでの手順をR社での取り組みと共に紹介します。
Ⅰ.R社の概要と課題
(1)R社の概要
R社は、主にオリジナルTシャツや帽子、タオルなどへのプリント加工を行っている。若手社長を中心に従業員の平均年齢も低く活気があり、成長期を迎えている会社である。企業を訪問しての営業活動のみならず、ホームページによる販売も行っている。顧客より注文を受けると、デザイン部門のデザイナーが顧客の要望を忠実に表現し、デザインを行う。デザインについて顧客より承諾を受けると、本社と併設されている工場でプリント加工が行われ、出荷されるという仕組みである。
(2)R社の抱える課題
プリント加工において、ホームページを見た顧客がサークルのTシャツを作る場合や、学校の文化祭用Tシャツのプリントを依頼する場合等、一般ユーザーから直接受注することがある。一般ユーザーは利益率が高く、今後も受注を増加させていく方針である。但し、一般ユーザーは品質、変更対応、納期等キメ細かい対応が必要である。受注量は確保出来ているものの、現状は社外に流れている状態である。同時に多品種少量生産に対応出来る工場への変革が求められる。これにより、一般ユーザーの内製化、プリント加工、メーカー品の外製化の体制構築が課題である。
Ⅱ.工場の概要と調査
(1)R社工場の生産工程
R社工場の生産工程は、①デザイン②製版(プリントのベースとなる版を作成)③プリント④検査・梱包⑤出荷である。(図表1参照)
(2)調査対象の設定
今回、R社の「プリント工程」で取り組んでいる工場での人材育成に焦点を当てることとする。R社のプリント作業は、人のスキルによって品質や作業ペースに大きく影響を受ける。作業者の入れ替わり等により、ベテラン作業者への作業負担が大きくなっているのが現状である。このことから、工場長が人材育成の重要性を認識し育成計画への取り組みを開始した。
Ⅲ.スキルマップ作成と育成計画の実践
作業スキルというのは個人差があるのは当然のことですが、プリント作業者がそれぞれどの程度の作業スキルを持っているのか、どのような作業を得意とし、教育が必要な項目は何なのか明確にすることが育成計画を立てる前提条件となる。スキルマップ作成と育成計画の実践手順は次の通りである。
ステップ①【能力棚卸】
その工程、作業を行うに当たって求められている能力は何かを明確にするのがステップ①である。R社においては、プリント作業を行うに当たって必要な能力について洗い出しを行った。
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ステップ②【スキルマップ作成】
能力棚卸結果を基にスキルマップを作成する(作業スキルの見える化)。スキルマップによる評価は4段階とし、
評価基準はそれぞれ次の通りとする。
4点:「自分で出来、他人に指導出来る。」
3点:「自分ひとりで業務が出来る。」
2点:「他人の指導を受けながら業務が出来る。」
1点:「習熟中」
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スキルの評価者は、工場全体の作業を熟知している工場長などが良い。また、複数の作業者により評価を行うことで、偏りを無くすことも出来る。
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ステップ③【個人別の育成計画作成】
ここまでのステップで、スキルマップを基に作業者ごとに教育が必要な項目が明確になる。教育計画を作成する際、以下の事項について決定しておく。
- 育成対象(誰を育成するのか?)
- 育成期間(いつまでに育成するのか?3ヶ月?1年?)
- 何のスキルについての育成を行うのか?(設定した育成期間で達成可能な目標とする。)
- 方法(どのような方法で育成を行うのか?社内で週1回1時間の勉強会開催、OJTでベテラン作業者が毎日1時間の指導を行う等)
- 効果測定(何をもってスキル向上を測定するか?スキルマップの得点、生産量、段取替時間等の評価方法を用いる。)
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ステップ④【教育の実施】
作成した育成計画を基に育成を行う。その際、予定通りの教育が実施されているかチェックしていくことが必要である。
ステップ⑤【改善効果の測定】
実施した教育に対してどの程度の作業スキルが向上したのか?教育を実施したことが生産性をどの程度向上させているのか検証出来る仕組みを作っておくことが望ましい。効果測定方法には、次のようなものが考えられる。
1.スキルマップの得点
・定期的にスキルの再評価を行う。教育を実施した項目の得点は向上したのか。個人別のスキルは向上しているのか。工程全体でのスキルのレベルが向上したのかを確認することが出来る。
2.生産量
・作業者のスキルが生産ラインに影響を与える場合、スキルの評価と併せて生産量の変化を見ることによって教育の効果を見ることが出来る。
3.段取替時間
・段取替に影響を与える作業について教育を実施する場合、段取替時間の変化で教育の効果を見ることが出来る。
4.不良率
・スキルが品質に影響を与える作業の場合、不良率の減少により教育の効果を見ることが出来る。
Ⅳ.R社における今後の課題
R社における人材育成は、現在進行中である。ステップ①の能力棚卸、ステップ②のスキルマップ作成まで取り組みが行われ、数値化されている。教育については、現在実施しておりOJTを中心として行っている。ステップ⑤の改善効果の測定方法についても「スキルマップの評価」及び「日報データの集計R社の今後の課題は、「個人別教育計画作成」及びその実行である。これは、ステップ③に該当する。
以上